もしも、鈴木太郎さんが遺言状を書いていない場合。

不動産業、行政書士、FPの資格を持ち、介護施設の管理者として8年の現場経験を積んできました。またビル管理会社の取締役も担っております。30数年間営業の最前線にもおりました。 今回は、それらのスキルをクロスさせて見えてくる「子供のいない夫婦の相続と、家族信託の可能性」についてお話しします。

【事例紹介】仲の良い鈴木さん夫婦の悩み

川崎市にお住まいの鈴木太郎さん(82歳)と花子さん(80歳)。 現役時代に懸命に働き、自宅マンション(4,000万円)と、年間を通じ満室経営のアパート(市場価値5億円)を築き上げました。 現在、このアパートの家賃収入が夫婦の生活の柱となっています。

夫婦に子供はおらず、太郎さんには3人の兄弟がいますが、兄は他界。 太郎さんは亡き兄の息子である一郎さんを自分の子供同様に可愛がり、一郎さんもまた、高齢になった二人の生活を献身的にサポートしてくれています。

① 花子さんが払う推定相続税は?

配偶者控除の適用により、多くの場合で税額は0円となります。 ただし、この特例を受けるためには、たとえ納税額がゼロであっても税務署への申告手続きが必要ですので注意が必要です。

② 太郎さんの兄弟に渡さなければいけない財産は?

【困る事】
遺言がない場合、太郎さんの兄弟(代襲相続人を含む)には法律で定められた「4分の1」の相続権が発生します。 資産総額5.6億円の1/4は1.4億円。現預金2,000万円しかない状況で分割を求められると、生活の糧である自宅やアパートを売却せざるを得なくなるリスクがあります。

③ その為にどうしなければならないでしょうか?

まず優先すべきは、太郎さんと花子さんがお互いに全財産を相続させる「夫婦相互の遺言書」を作成することです。 兄弟には「遺留分(最低限の取り分)」がないため、遺言さえあれば大切な財産をすべてパートナーへ残すことができます。

④ 太郎さんは今、どうすればよいのでしょうか?

さらに一歩進んだ対策として、「家族信託」の活用が有効です。 管理能力のある一郎さんに財産を託しつつ、家賃収入等のメリットを受ける順番を「花子さん→春子さん→一郎さん」と設計することで、数代先までの安心を実現できます。

【家族信託による設計イメージ】
1. 太郎さんの亡き後は、まず妻の花子さんが生活を支える権利を得る。
2. 花子さんの亡き後は、妹の春子さんの生活をサポートする。
3. 最終的に、献身的に支えてくれた一郎さんに財産が引き継がれる。

① 花子さんが払う推定相続税:0円(申告は必要)

結論から申し上げますと、今回のケースで花子さんが支払う相続税は「0円」になる可能性が高いです。

  • 理由:相続税には「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」という特例があり、配偶者は「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額までは相続税がかかりません。
  • 今回のケース:遺産総額が約5.6億円の場合、花子さんの法定相続分(3/4)は約4.2億円です。控除額のほうが大きいため、税負担はゼロとなります。
  • 注意点:納税額が0円であっても、この控除を受けるためには税務署への相続税申告が必須です。

② 太郎さんの兄弟に渡さなければいけない財産:約1億4,000万円

遺言がない場合、法律で定められた割合(法定相続分)に従って分けることになります。

  • 法定相続分の割合:子供のいない夫婦の場合、配偶者が「4分の3」、兄弟姉妹が「4分の1」となります。
  • 具体的な金額:総額5.6億円の4分の1にあたる「1億4,000万円分」の権利が、太郎さんの兄弟(代襲相続人含む)に発生します。

【困った事態が発生します】
太郎さんの手元にある現金は2,000万円しかありません。兄弟側から「法定相続分通りに分けてほしい」と主張された場合、不足する1億2,000万円を工面するために、住んでいる自宅や、生活の糧であるアパートを売却せざるを得ないリスクが生じます。

③ その為にどうしなければならないか

花子さんが今の生活を守り、自宅やアパートを手放さないためには、生前に以下の対策を強くお勧めします。

1. 遺言書の作成(最優先)
太郎さんが「妻の花子に全ての財産を相続させる」という遺言書を書くことです。兄弟には「遺留分(最低限の取り分)」がないため、遺言書さえあれば、全財産を確実に花子さんへ残せます。

2. 代償分割の準備
何らかの事情で兄弟にも財産を分ける必要がある場合は、現金の代わりに「代償金」を支払う準備(生命保険の活用など)が必要です。

3. 家族信託の活用
「家族信託」を組み合わせれば、太郎さん亡き後の管理を信頼できる親族(一郎さん等)に任せつつ、家賃収入は花子さんが受け取り、最終的な財産の行き先まで太郎さんの意思でコントロールできます。

まとめ

遺言がないと、花子さんは「住む場所」と「生活費」の両方を失う危機に直面します。太郎さんがお元気なうちに、公正証書遺言の作成や家族信託の手続きを進めることが、大切なパートナーへの一番の思いやりとなります。

信託スキームの選び方

専門機関との連携で資産価値を守る

家族信託には、親族間で完結させる方法以外にも様々な選択肢があります。 日本の信託業界をまとめております一般社団法人信託協会は、信託銀行の加盟社が多く、三井住友、三菱、みずほ、りそなの4信託銀行が理事にあたる社員をしております。

またその下には、準社員の87社が有り、多くは信託銀行もしくは銀行の信託部門で、外資系の信託会社も加盟しております。

特に今回のようなアパート経営が主軸の場合、積水ハウス信託やスターツ信託など、建物の一棟管理に重点を置く信託会社も加盟しております。 お持ちの資産が1棟のマンションやアパートが主な資産だった場合には、これらに委託するのが良い選択かもしれません。

「誰に、どのような順番で財産を繋ぎたいか」
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