行政書士、不動産業、FPの資格を持ち、介護施設の管理者として8年の現場経験を積んできました。 今回は、それらのスキルをクロスさせて見えてくる「子供のいない夫婦の相続と、家族信託の可能性」についてお話しします。

【事例紹介】仲の良い鈴木さん夫婦の悩み

川崎市にお住まいの鈴木太郎さん(82歳)と花子さん(80歳)。 現役時代に懸命に働き、自宅マンション(4,000万円)と、年間を通じ満室経営のアパート(市場価値5億円)を築き上げました。 現在、このアパートの家賃収入が夫婦の生活の柱となっています。

夫婦に子供はおらず、太郎さんには3人の兄弟がいますが、兄は他界。 太郎さんは、亡き兄の息子である一郎さんを自分の子供のように可愛がり、一郎さんもまた、高齢になった二人の生活を献身的にサポートしてくれています。

心配事(1):太郎さんが先に亡くなったら、花子さんはどうなる?

【困る事】
遺言がない場合、太郎さんの兄弟(代襲相続人を含む)には「4分の1」の相続権が発生します。 資産5.6億円の1/4は1.4億円。現預金2,000万円しかない中でこれだけの遺産分割を求められたら、花子さんは自宅やアパートを手放さざるを得なくなります。
【対策】
太郎さんと花子さん、お互いに全財産を相続させる「夫婦相互の遺言書」を作成しましょう。 兄弟には「遺留分(最低限の取り分)」がないため、遺言さえあれば兄弟に財産を渡す必要がなくなり、花子さんの生活は守られます。

心配事(2):その後、花子さんも亡くなったら財産はどこへ?

しかし、その後に花子さんが亡くなると、鈴木家が築いた全財産は、花子さんの妹の子供(太郎さんと血縁のない甥・姪)に渡ってしまいます。 今一番お世話になっている一郎さんには一円も渡らなくなってしまうのです。

【なぜ養子縁組では解決しないのか】
「一郎さんを鈴木家の養子にする」という案も出ましたが、花子さんがこれに賛成しませんでした。 花子さんには「自分が亡くなった後は、苦労している妹の春子さんの生活を支えてやりたい」という強い願いがあったからです。

【解決策】家族信託という新しい形

そこで太郎さんは、「家族信託」を活用することにしました。 アパートなどの財産を信託財産とし、管理を信頼できる一郎さんに託しながら、家賃収入等のメリットを受ける人を段階的に指定したのです。

【信託の設計内容】
1. 太郎さんが亡くなった後は、まず妻の花子さんが生活を支える権利を得る。
2. 花子さんが亡くなった後は、妹の春子さんの生活をサポートする。
3. 最終的に、全ての管理を担い支えてくれた一郎さんに財産が渡る。

信託スキームの選び方

家族信託には、親族間で完結させる方法以外にも様々な選択肢があります。 一般社団法人信託協会には、三菱UFJ、三井住友、みずほ、りそなといった大手信託銀行のほか、準社員として外資系や独立系の信託会社など多くの企業が加盟しています。

特に今回のようなアパート経営が主軸の場合、積水ハウス信託やスターツ信託など、建物の一棟管理に重点を置く信託会社を併用するのも、管理の質を高める上で非常に良い選択肢となります。

「誰に、どのような順番で財産を繋ぎたいか」
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